コロナでも雛旅。古(いにしえ)の雛を訪ねる、4泊5日の長野・岐阜・愛知 13 - 田中本家博物館の江戸時代料理再現食事会②(2021年3月27日/2日め)
2021年3月27日 田中本家の、「春の江戸時代料理 再現食事会」で。(長野県須坂市)
3月27日
田中本家博物館での、
江戸時代料理再現食事会。
嘉永2年(1849年)のお正月料理ですから、
172年も前ということになります。
御家老方に供されたお料理の数々を
ご紹介いたします。
お料理は、一品ずつ運ばれ、
ひとつひとつについて、
ご当主が説明してくださいます。
次にいただいたのは、お刺身でした。
長野県のような、海のないところで、
どうしてお刺身が出されたのか、
不思議ですよね。
魚は、当時、
ここから100キロ近く離れた、
直江津から運ばれました。
新潟県です。
直江津から須坂まで、
宿場ごとに運ぶ人を置き、
「魚を運ぶ人がもうすぐ来る」
と、先触れをしたそうです。
宿場ごとに、運ぶ人を待機させたわけで、
今で言うと、
リレーを行ったわけですね。^^
足の速い人なら、
一日に50キロくらい、走ったとか。
そんなふうにして、100キロの道のりを、
一日半くらいで運んだ記録があるそうです。
新潟で、早朝に獲った魚を、
翌日の夕餉には、
長野でいただけたことになります。
江戸時代、ですよ。
ひと皿のお造りに、
それだけの手間と費用をかけた。
まさに、贅を尽くした、お刺身でした。
刺身: 塩引鮭刺身、味醂掛け、鮃鯛作交刺身、海素麺、短冊獨活、摺山葵
染付山水 八角皿 伊万里焼
お刺身に使うのは、お醤油ではなく、
お猪口に入った、煎り酒です。
猪口: 煎り酒
染付 猪口 伊万里焼
【煎り酒(いりざけ)】
日本酒に梅干等を入れて煮詰めたものです。醤油が普及する以前の室町時代に考案され、江戸時代中期まで、広く用いられました。醤油ほど保存が利かず、味も強くないとされ、江戸時代中期以降醤油が普及する過程で、利用が減っていきました。醤油に比べて、素材の風味を生かす利点があり、白身魚や貝類の刺身に相性がよい調味液です。
我が家では、日頃、お醤油は、
国産原料のものを選んで、
こだわって使っています。
「やはり、お刺身はお醤油でないと…」
と思いながら、
あまり期待しないで、ひと口。
え…。
びっくりです。
お醤油でいただくよりも、
おいしいのです。
お刺身の味わいが、
まったく違うものになっています。
「いかがですか?
お醤油と言うのは、味が強いので、
魚の味を殺してしまうんですね。」
と話す、ご当主。
ちなみに、会社員時代は、
キッコーマンにお勤めだったそうです。😅😅
この煎り酒、現在では、
ほとんど見かけることがありません。
が、実は、今でも作られています。
島根県益田市・丸新醤油醸造元の煎り酒です。(980円)
田中本家博物館の売店にありました。
100mlの小瓶です。
あまりにおいしかったので、
一本、買って帰ったものを、
自宅で撮りました。^^
さて、焼き魚です。
焼物: 方頭魚(かながしら)白焼、富貴田楽、叩き牛蒡
染付梅鷲拾六角焼物皿 伊万里焼
上が夫、下が私のお料理です。
お魚の表情が少し違うので、
両方を並べてみました。
いただいたあとの器(伊万里焼)です。
ここでご当主が、
ひとつひとつのテーブルをまわり、
お声をかけてくださいました。
MIYO、緊張しています。笑
大平: 白数巻鶏卵、鰊鯑(にしんかずのこ)、干烏賊千(ほしいかせん)、孟宗竹、慈姑、簾麩(れんふ)、蓮根土佐煮
皆朱 輪島塗 膳椀揃
ひとつひとつが、異なる味わい。
彩りも美しく、
お料理そのものが、工芸品のようです。
そして、どこか愛嬌のある柄の
蓋茶碗が運ばれました。
蓋のある器では、蓋にもていねいな柄が施され、それは、蓋の裏側にまで及びます。
蓋茶碗: 鱈の子、戻海苔、片生姜、黄味酢掛
染付 紋尽 蓋茶碗 伊万里焼
お魚を、卵黄の酢掛けでいただきます。
これもまた、
生まれて初めてのお味です。
さっぱりとして、おいしい。^^
ほんのりとした卵の甘みと、
海苔の風味が、口の中で広がります。
平: 蒟蒻 肉和、分銅芋、焼豆腐、青菜
内朱外黒 輪島塗 膳椀揃
小皿: 味噌漬
青磁 鶴浮き模様小皿 竜泉窯
最後は飯物です。
お正月のおもてなし料理ということで、
七草粥でした。
唐子模様の蓋茶碗です。なんとかわいらしい。^^
飯: 七草粥
人物模様 蓋茶碗 伊万里焼
味噌漬といっしょにいただきます。蓋の裏側に描かれているのは、遊ぶ唐子です。
器の側面も、このとおり。唐子の生き生きとしたようすが、楽しいですね。
番茶
松竹梅 鶯模様 伊万里焼
夫の無粋な手が邪魔ですね…。😅😅
鶯模様の春らしいお茶碗で、
番茶をいただきました。
夢のような、
至福の2時間でした…。^^
器のすばらしさもさることながら、
驚かされるのは、これほどの器が、
11人分、揃ってしまうということです。
たった一枚を、博物館に飾っておくのとは、
わけが違います。
大勢の賓客をもてなし続けてきた、
豪商・田中本家なればこその
「再現食事会」と言えます。
器だけを考えても、こうなのです。
田中本家の所蔵品が、
いかに膨大なものであることか。
敷地内に20の蔵があるというのも、
頷けます。
最後に。
お食事会のお料理は、
「諸客賄方控帳」に基づいているのですが、
そこには、供した料理の記録があるだけで、
「どう作り上げたのか」までは、
書かれていないのだそうです。
料理の再現にあたっては、
言い知れぬご苦労があったことでしょう。
試行錯誤を重ね、
すばらしいお料理に仕上げてくださったのは、
割烹「能登忠」の田幸新一さんです。
「能登忠」の創業は明治15年。
田中本家の近くにあり、
茶懐石に日本料理の原点を求めて
120年余りの、歴史あるお店だそうです。
田中本家から送られてきた、ご案内。
参加費は、あえて、伏せました。
この日の体験は、プライスレス、
ということで。^^
(つづく)