長男・のぞみは、3年前から、
東京都にある盲重複障害者施設、「S園」で生活しています。
長男は全盲・難聴です。
自分でできることはたくさんあるけれど、
できないこともたくさんあります。
そんな息子が施設に入った当初は、
私も、夫も、娘も、みんな、なんだか手持ちぶさたで、毎日、
「いまごろ、のんたんはなにをやってるかなあ。」
と、家族の誰かはつい言ってしまう、というありさまでした。
けれど、はじめの数ヶ月が過ぎると、
家族の誰もが、長男の居ない暮らしにも慣れてしまいました。
それまでは、なにかをするにも、どこかへ出かけたりするにも、
家族4人がいっしょに行動するのが当たり前でした。
休日に、家族の誰かが外出する場合は、
「誰が長男と一緒に過ごすのか。」
が、私と夫の間での、最重要確認事項でした。
長男を、家にひとりで残しておくことはできなかったからです。
18年間、「なにをするにも、家族いっしょ」だったのですが、
今では、週末になると、夫はひとりで出かけてしまいますし、
娘は、友達と遊びに行ったり、図書館に行ったりと、
それぞれが自由に過ごしています。
どこの家にもある、ごく普通の家族のようになってしまいました。
障害のない娘よりも、障害のある息子の方が先に自立してしまうとは、
思ってもみませんでした。
ちょっと寂しい気持ちもあるけれど、
「子どもは成長して、家を出て行くのがあたりまえなのだから。」
とも思います。
早いもので、S園での生活も3年目になりました。
長男は、自分で希望して行っただけのことはあり、
S園で、毎日楽しく生活しています。
「もう、親の役割は終わり。」
と私は思っていました。
S園では、毎年10月に、大規模なバザーが開催されます。
今年度のバザーが開催されたのは、
私の4回目の抗がん剤治療が終わったころでした。
体調は万全ではなかったけれど、
息子の顔が見たさに、電車で2時間半かけて、S園まで出かけました。
その、バザー会場でのことです。
「おかあさん、だいじょうぶですか?」
いつもお世話になっている、S園のT課長が、気遣ってくださいました。
私は、いつも思っていたことを、率直に言いました。
「『自分がいつ死んでも、もう、この子は大丈夫。もう心配することはない。』
と思っています。
病気になっても、後の心配をしないでいられるというのが、
どれほどありがたいことか…。
いつも、皆様に感謝しています。」
すると、間髪を入れず、T課長は、こう言われました。
「とんでもない。
おかあさんには、これからも、
ノゾミくんの成長を、いっしょに喜んでもらわないといけません。
どうぞ長生きしてください。」
え? と思いました。
子育てはもうおしまい。
もう、息子といっしょに暮らすこともない。
親の役割は、終わったんだ。
もう、いつ死んでも大丈夫なんだ…。
長男がS園に行ってからずっと、そう思っていました。
けれど、そうではないのだと、気づかされたのです。
長男は、これからも成長を続けていくし、
まだ、親の役割は残っていました。
「息子の成長を、いっしょに喜ぶ」という役割が…。
なんとうれしく、楽しい、役割でしょうか。
「これからも、長男の成長を楽しみに、生きていく…。」
それはまるで、18年間、子育てをがんばってきたことへの、
ごほうびのように思えました。
そんなことを、さらりと言ってくださったT課長への、
感謝の気持ちでいっぱいになりました。
これからも、成長を、いっしょに喜んでもらわないと。
帰り道、T課長の言葉を思い出し、涙が出ました。
S園に入れていただいて、よかった…。
ただただ、そう思っていました。
その他の記録については、
ガンになって
http://limings.sweet.coocan.jp/miyo01/miyo1701.html
ガンになって、やったこと
http://limings.sweet.coocan.jp/miyodos/miyodos00.html
http://limings.sweet.coocan.jp/
をご覧ください。
クリックして応援してください。^^
↓