MIYO'S WEBSITE - 全盲難聴のんたんの記録と卵巣ガン、そして旅日記。

超未熟児で生まれた後遺症で、全盲難聴(盲ろう)となったのんたん、双子の妹あみちゃんと共に楽しく生きる家族のお話です。
子どもたちは24歳になり、毎日元気に楽しく暮らしています。
卵巣ガンになって思ったことも、少しずつ書き始めました。
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コロナでも雛旅。古(いにしえ)の雛を訪ねる、4泊5日の長野・岐阜・愛知 15 - 田中本家博物館 収納の作法(2021年3月27日/2日め)

2021年3月27日 若殿様子子供行列(わかとのようすこどもぎょうれつ)。愛らしい若殿と家来の行列を表現しています。(長野県須坂市・田中本家博物館 )


3月27日


田中本家博物館の企画展で、
田中田鶴さんの雛段飾りを
見学しています。



田中本家に今も残る
膨大な量の所蔵品。
なかでもお雛さまは、
江戸、明治、大正、昭和と、
各時代の品々が残されています。
長女が生まれるたびに、
新たにお雛さまが買い求められ、
大切に保存されてきたそうです。
その数、実に、250点。

現代には見られませんが、当時のお雛さまには、歌舞伎や能狂言の場面を描いた人形もありました。ひとつひとつの人形に、子どもの健やかな成長や幸せを願う気持ちがこめられているそうです。

上:猩々(しょうじょう)(明治時代)
下:三條小鍛治(明治時代)


そして、とりわけ、
田中本家を象徴する人形がありました。
愛らしい若殿と家来の行列を表現した、
若殿様子子供行列(わかとのようすこどもぎょうれつ)
です。


若殿様子子供行列。春駒にまたがる若殿様を中心に、供侍と中間が並ぶ人形です。江戸の人形師 原舟月によるものです。田中本家では、この人形も、雛人形と一緒に雛壇に飾ってきました。供侍や中間の衣装には田中本家の家紋が刺繍されているところから、田中本家の特別誂え品と考えられています。

中央の若殿様を須坂藩主、供侍を田中本家の当主と見立てると、須坂藩と田中家の親密な間柄が見えてきます。

他の人形と比べると、中央の殿様だけ、着物の生地も、綿の入り方も違っており、ワンランク上の人形なのだそうです。髪の毛も、他の人形は人毛ですが、殿様の髪は、羅紗のような布を細かくして貼り付けてあるのだとか。この人形には、当時の田中家の人々が殿様を敬う気持ちが込められています。須坂藩主と田中家の間には、特別な絆があったことがうかがえます。

でも、夫が撮った写真は、若殿ではなく、中間の方でした。(なぜ?笑) 江戸時代の物とは思えない美しさですね。


年月を経た人形が、
これほどまでに美しく残されている秘密は、
「田中家の収納の作法」
にあります。
それが、今回の特別展で、
紹介されていました。


収納に携わっているのは、
副館長の田中洋子さん。
(12代当主の奥様であり、そして、
 11代当主のご長女です。)



たいへん細かい、
手間のかかる作業なのですが、
完結にまとめると、こうなります。


①刷毛で、細部までていねいに埃をはらう。
②真綿をはさみこんだ和紙で顔を包み、こよりでしばる。
③髪の毛や飾り道具も、同じ方法で、ひとつひとつ、ていねいにつつむ。

④和紙を全体にかけられた人形を、一体ずつ、専用の木箱に収める。
⑤箱の中で、さらに、人形を綿で覆う。
⑥箱を閉じた後は、和紙を二重に貼って目張りする。


もう、ため息がでます。
雛人形の、小さなお道具の
ひとつひとつに至るまでが、
同じようにして、保管されました。


すべてのお道具を含めて、
一組のお雛さまをしまうのに、
3か月かかるそうです。
ちなみに、お雛さまを飾るのには、
1か月かかるとか。😅


つまり、お雛さまを1か月展示するために、
4か月を費やすことになります。
この作業で手いっぱいになるため、
田中本家で、
お食事会を開催する時間がとれるのは、
3月、6月、9月のみ。
そのなかで調整しながらも、
平成6年から、年に2回、
お食事会を開くようになりました。


ですがそれも、
コロナ禍で開催できなくなり、
今回のお食事会は、
一年ぶりのことだったそうです。


さて、次のコーナーです。
ここでは、雛人形やお雛道具のための
「収納箱」を紹介しています。


全ての人形や道具類には、専用の箱があり、「雛土蔵」と呼ばれる専用の土蔵にしまわれました。

田中本家では、箱に目張りをしてから、収納しています。これによって、外の気温や湿度の影響を受けにくくなり、箱の内部を安定した状態で保存することができるのです。


箱から出し、飾り、またしまうという手間は、
非常にたいへんなものですが、
100年以上経ても美しさを保ってきた理由は、
この、「収納の知恵」にあったと言えます。


外の空気と遮断することによって、
酸化を防ぎながら保存する。
これが、田中本家における、
保管の作法でした。


お雛さまの顔を和紙でくるみ、
こよりでとめるときには、
結び目が顔にあたらないようにと、
配慮しておられます。
お雛さまが苦しくないように、
という心配りだそうです。


お雛さまを、物ではなく、
魂が宿る存在として、思いやる。
収蔵品を大切に思う気持ちと、
現在まで伝えられてきた保存の知恵が、
人形たちの命を保ってきました。


フランス人の美術史家、ソフィー・リチャードも、
その著書で、こう述べています。


「田中家が何世代にも渡り、
 すべてのものを保存してきたことが、
 素晴らしい。」


収納箱の隣りには、
田中家に伝わる古文書が展示されていました。


右端が萬賄方控帳で、その隣りが顧客賄方控帳。田中家では、こういうものを読み解きながら、毎回、すばらしい食事会を開催しておられます。

顧客賄方控帳をもとに再現した、お料理の例。


次のコーナーでは、
土蔵の様子を再現しています。


江戸時代から今日まで、
陶磁器、漆器、書画、着物、古文書などの
所蔵品を保存してきた、
土蔵の内部を再現しています。


この建物は、江戸時代に酒米を蒸した窯場でした。天井や梁についた煤が、当時の様子をしのばせています。

吊るし雛は、来館した方からの寄贈品だそうです。土蔵とはいえ、まるで人が住んでいるかのように、家具や収納箱が整然と並んでいます。

長持

この箪笥は、江戸時代のものです。

刀箪笥。八幡指物屋与作へ注文。大小の刀を収めるのに丁度よい寸法に造られた、刀専用の箪笥です。材料には、桐が使われています。桐には、湿気の親友を防ぐ働きがあるため、箪笥の素材として、よく使われました。


「刀箪笥」…。
どこかでたしかに見ました。
そうそう。群馬県の、
「かやぶきの郷 薬師温泉 旅籠」
です。


「かやぶきの郷」の刀箪笥。箪笥のコレクションが、すばらしい世界を見せてくれました(2020年11月13日)

初めて「刀箪笥」というものを見たのも、かやぶきの郷でした。


4か月前に訪れた「かやぶきの郷」と、
今目の前にある田中本家。
ふたつの刀箪笥が、
今、しっくりと重なりました。


(つづく)

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