ガンになるまでの日々 ⑪ 肉腫(2009年1月)
2008年10月11日 盲学校の運動会で。(全盲難聴・のんたん 13歳/中1)
2009年1月
年が明け、私の入院は、
一か月になろうとしていました。
が、術後に起こった腸閉塞が改善せず、
いつ退院できるかすらも、
わからないような状態でした。
そのころに入院してこられたのが、
Fさんです。
60代くらいの、上品な方でした。
ご主人はすでに亡くなり、
娘さんはお嫁にいかれたので、
横浜の自宅で、
ひとり暮らしをされているそうです。
「かかりつけの病院でね、
検査していただいたの。
そしたら…。」
医師はこう言ったそうです。
「Fさんね。
ガンじゃなくて、肉腫ですよ。
これはとても珍しい病気で、
専門の病院でないと、治療できないんです。
でもね、いい病院を知っているから、
紹介状を書きますよ。
この病院に行けば、大丈夫です。
よかったね。きっと治療できるよ。」
【肉腫(サルコーマ)】
全身の骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)から発生する悪性腫瘍の総称です。肉腫の発生頻度は極めて低く、悪性腫瘍全体に占める肉腫の割合は約1%に過ぎません。まれな腫瘍であることから、診断や適切な治療が困難であることも、少なくありません。
「肉腫」ということばを、
私は、このときに初めて知りました。
診断が難しい病気で、
手遅れになることも、
めずらしくないそうです。
Fさんは、当時の主治医の紹介で、
G研病院に入院しました。
子宮の肉腫だったそうですが、
手術で切除し、現在は、定期的に、
抗がん剤治療を行っているところでした。
子宮の肉腫は、非常にまれな疾患です。
子宮筋腫や腺筋症と区別がつかないままで
治療されてしまうことも多いそうです。
ふつうのガンでもショックなのに、
「肉腫」
「診断が難しい」
「治療も難しい」
「専門施設でないと」
などと聞くと、もうそれだけで、
心が折れてしまうかもしれません。
けれど、Fさんは、
終始、ニコニコとした表情で、
その話を聞かせてくれました。
まるで、
「昨日ね、**を買って食べてみたら、
おいしかったのよ。」
とでも言っているかのような、
そんな、気軽な話し方でした。
「突然、肉腫だなんて言われて、
びっくりしたけど、
こんないい病院に入院できて、
よかったわ。
私は、運がいい。」
私も言いました。
「…そうですね。
この病院で治療ができた、というだけで、
まずは、ひとつめの運を、
つかんだんですよね。」
黙って話を聞いていた、
他のふたりのルームメイトも、
ベッドの上で、
「そうそう。」
と、うなずきました。
ガンになって、
「私たちって、運がいいよね。」
と語り合う、4人。苦笑
ちょっと不思議な光景です。
けれどG研では、
そう珍しくもない、光景でした。
誰もが、この病院で治療ができたことを
感謝し、希望を持ち続け、
そして淡々と、病気に向かいあっていました。
病室の中では、いつも、
穏やかな時間が流れていました。
(つづく)
始めに、全員でラジオ体操。そして競技では、先生とヒモでつながって走りました。

