ガンになるまでの日々 ⑩ 転移(2008年12月)
2008年10月4日 ひたち海浜公園で。(のんたんとあみちゃん・13歳/中一)
2008年12月
12月の病棟は、患者さんでいっぱいでした。
年内に、なんとか
治療の区切りをつけておきたい、
と、入院を希望する患者さんが
多かったからのようです。
年末のお休みにはいってしまうと、
急患でないかぎり、
お正月休みが終わるまで、
入院はできないし、
抗がん剤の治療もできません。
治療のタイミングが合い、
予約がとれるのであれば、
できるだけ年内に治療しておきたい、
と思うのは当然です。
そんなわけで、12月中は、
空きベッドを見ることが、
ほとんどありませんでした。
ある日のことです。
午前中に、
私のお向かいのベッドの方が
退院されました。
患者さんが退院されて、
ベッドが空くと、
すぐに、看護助手の方がやってきます。
そして必ず、そのベッドを、
ていねいに消毒します。
それを眺めていた私は、
「明日には、次の患者さんが
いらっしゃるのだろうな。」
と思っていました。
ところが、早くも、同じ日の午後に、
次の方が入院してこられました。
ホテルの客室並みの回転率です。笑
どうやらこの頃は、本当に、
患者さんでいっぱいだったようです。
さて、その日にやってきたEさん。
40代くらいの女性です。
私たち3人に、笑顔で挨拶したあと、
荷物の整理を始めました。
Eさんは、独身のようで、
家族の付き添いもなく、
小さなバッグひとつで、入院してきました。
荷物はどうしたのかな、と思っていたら、
なんと、必要な物をスーツケースに詰め、
宅配便で、病棟宛てに送っておられました。
荷物はスーツケースで送り、
自分は手ぶらで入院。
付き添いはなし。
まるで、旅行しておられるかのようです。
なんとスマートなのでしょう。^^
荷物の整理を終えたあと、Eさんは、
私たちひとりひとりのベッドに来られて、
あらためてごあいさつ。
「これ、よかったらお使いください。」
小さなノートをいただきました。笑
「以前、入院した時に、
ちょっとしたメモ書きができるような
ノートを持ってくればよかったな、
って思ったんです。だから、
もしかして使っていただけるかも、
と思って。」
荷物を別便で送るスマートさといい、
私たちへの気配りといい、
なんだか、余裕のEさん。
G研には何度も入院しておられるのか、
そうとう慣れている感じです。^^
「いつごろ手術されたのですか?」
と、訊いてみました。
「2年前に、子宮がんの手術をして、
そのあとの抗がん剤の治療も
終了していたんです。
でも、経過観察で、
肺に転移してることがわかったので、
また戻ってきました。」
そうだったんですね…。
と言ったものの、
そのあと、どう言えばいいのか、
言葉に詰まってしまいました。
「残念ですね」なんて言葉は、
口がさけても、言えません。
そんな私の気持ちがわかったのか、
Eさんもなにも言わず、
ただ、穏やかな笑顔を見せてくれました。
終わったと思っていたガンが、
転移していたと知ったEさん。
また、抗がん剤治療が始まります。
驚き、悲しみ、動揺したことも
あったかもしれません。
けれど、この病室には、
スーツケースと共に、
さっそうとやってきて、
ごあいさつがわりに、と
プレゼントまで用意してこられた。
少し笑顔を見せながら、
ゆっくりと控えめに話すようすは、
とても穏やかで、清楚で、
そして優し気でした。
物静かなEさんは、
翌日から、淡々と治療をこなし、
そして、数日後、
ひっそりと退院していかれました。
翌日から、出勤する予定だそうです。
入院の時に、同室の人たちへと、
プレゼントを持参してこられた方は、
後にも先にも、Eさんだけです。^^
ガンが肺に転移しているとわかっても、
そんな心配りができる方でした。
さりげなくて、かっこいい。
すごいなあ…。
今でも、頭が下がる思いです。
(つづく)