MIYO'S WEBSITE-全盲難聴のんたんの育児記録と卵巣ガンで思ったこと

超未熟児で生まれた後遺症で、全盲難聴(盲ろう)となったのんたん、双子の妹あみちゃんと共に楽しく生きる家族のお話です。
子どもたちは21歳になり、毎日元気に楽しく暮らしています。
卵巣ガンになって思ったことも、少しずつ書き始めました。

のんたんの冬休み⑰ おいしいものを食べる、ベトナム8日間おトク旅 - ワイングラス事件(2日目)

2003年2月16日 「さんぱつ、こわいよ~。」散髪屋さんのガウンを着けることさえ、許してくれなかった頃。
だいじょうぶ、こわくないよ、と説明したい。でも、長男は、ことばが理解できない。そんな頃でした。今、長男は、会話ができる。私を、「おかあさん」と呼ぶ。すごいね。よく、ここまできたね。(全盲難聴・のんたん 7歳)



ハロン湾クルージングで、楽しい一日を過ごした私たち。
ハロン湾でのお話はとりあえず終わり、にしようと思ったのですが、
やはり思いなおし、ここでもう一話、書いておくことにしました。


船上での、ランチのときのことです。


乗船し、席に着くと、用意されたテーブルには、
私たち4人のために、ワイングラスが4個、置かれていました。
勧められるままにワインをボトルで注文し、
私と夫のグラスに、それが注がれました。


船内では、炭酸のジュースしか販売していませんでした。
我が家の子ども達は、炭酸飲料を飲みません。
そこで、長男と長女のワイングラスに、持参していたお水を注ぎました。


長男に、「お水だよ」と言って、グラスを持たせると、
のどが渇いていたのでしょう。
長男は、すぐに飲み始めました。


私は、食事が運ばれてくるまでの間、ワインを飲みながら、
しばし左側の窓外に広がる景色を眺めておりました。
そして、ふと、私の右側に座っている長男に目をやったとき、
驚きのあまり、頭がまっしろになりました。


長男が持っているグラスの、口をつける部分が、割れているのです。
それも、まるでかじったかのように、半月の形に、ガラスがなくなっていました。


まさか!


あわてて、長男の口を見ると、
唇のあいだに、そのガラスがはさまっているのが見えます。


どうしてこんなことになるんだ!


と、パニックになりました。


全盲・難聴の長男を育てているあいだに、
驚くこと、感心すること、教えられること、それはもう、たくさんあったのですが、
これほどに、心が凍りつくほどびっくりしたのは、初めてでした。
だって、長男の口から、割れたガラスがのぞいているのです。


あわてて、長男の口からそれをとりだしました。
口を切らないように、そっと、そっと・・・。


「のんたん、口をあけて」
と言うと、長男はそれを理解し、素直に、口をあけてくれました。
口の中をのぞき、指を入れて点検しましたが、
幸い、ガラスは、口の中には残っていないようでした。
でも、念のため、夫に再度、口の中をチェックしてもらいました。


長男、22歳です。
でも、私はそれまで、知りませんでした。
長男がなにかを飲むとき、
そのコップやグラスに、軽く歯をたてていたということを。


この日も、水を飲みながら、
長男は、自分の手に持たされたグラスに、歯をたてたのでしょう。
けれど、いつもと違うことが起こりました。
ワイングラスは、ガラスが薄いので、
ふつうのコップよりもずっと、もろかったのです。


歯をたてた長男の口の中で、まるでおせんべいのように、
ワイングラスは、簡単に割れてしまいました。


困った長男は、それを飲み込むこともできず、
でも、どうしていいかわからず、
そのまま、唇にはさんでいたのです。


よくぞ、飲み込まないでいてくれた・・・。
と、私は、安堵しました。


薄いガラスは、もろくて割れやすいこと。
そんなことは、見えていれば、育っていく中で、自然にわかることです。
見えなくても、言葉で説明してもらえれば、わかります。


けれど、長男は、見えない。
言葉で説明しようにも、複雑なことは、理解できません。


だから、
「ワイングラスはもろくて、歯をたてると簡単に割れる。」
ということが、
長男にはわからなかったのです。


このときのことを思い出すと、
今でも、胸がどきどきします。
長男が無事で、ほんとうによかった・・・。


盲ろう児を育てるということは、
「見えていれば、自然にわかること。」
「聞こえていれば、自然にわかること。」
を、情報として取り込むことができない子どもを、育てていくということです。
だから、なんでもひとつずつ、おしえていかなければならない。


そんなことは、22年間、わかってきたはずだったのに。
まさか、「ワイングラスは薄いから、噛むと割れるよ。」ということを、
伝えなければならなかったとは。(汗)


ああ、私も、まだまだだなあ。
のんたん、気がつかなくてごめんね。


と、反省したのでした。



長男の口にガラスがあるのを発見したとき、
私は驚きのあまり、大きな声で叫んで、夫を呼びました。
その声が、みんなに聞こえてしまい、
この騒ぎは、船内にいた全員の知るところとなりました。


あわてて、テーブルの上の、長男用のグラス類を、
全部かたづける、スタッフのみなさん・・・。(苦笑)


いや、あの、心配なのはワイングラスだけで、
そのほかのコップとか食器とかは、大丈夫なんですけど・・・。
と思いましたが、まあ、説明するのもめんどうなので、
されるがままに。
長男の前に残されたのは、ごはんをよそうためのお茶碗ひとつだけでした。
結果、長男はこのあと、
そのお茶碗で、お水を飲むはめになりました。(苦笑)


スタッフの方だけでなく、
ツアーでいっしょだった、他の参加者の方々も、
この騒ぎに、びっくりされたことでしょう。
ランチの前の楽しいひとときを、お騒がせしてしまい、
すみませんでした・・・。


そんなことがあったので、バスを降りるとき、
「皆さん、お世話になりました。」
という私に、皆さんが笑顔で答えてくださったことに、
ほっとするような思いでした。


そして、今、これを書きながら、ふと思いました。
「しまった。
 新しいワイングラスをもらって、
 もういちど、長男といっしょに、
 お水を飲む練習をすればよかった。」
と。


あとになって説明しても、なかなか心にひびきません。
長男自身もびっくりしていたこのときが、おしえるチャンスだったのです。
「のんたん、さわってごらん。
 ふつうのコップとちがうでしょう。
 これは、『わいんぐらす』って言うんだよ。
 わいんぐらすは、『うすい』でしょう。
 だから、割れやすいの。
 噛んじゃ、だめだよ。」
って・・・。


「噛んだら割れる」ということを学習したので、
長男が再び同じ事をする心配はありませんでした。
印象的な事件が起こったあとというのは、
長男にとって、「ワイングラス」とか、「薄い」とかの言葉を教える、
いい機会でした。
それに、「薄いものは、割れやすい」ということも。


あのときは、私も動転していて、
そこまで思いつかなかったのです。
いやー しまった・・・。


今度帰宅したら、もう一度、ワイングラスに水を注いで、
長男に言ってみようと思います。


こんなふうにして、ひとつひとつのことを伝えながら、
少しずつ、ことばを獲得してきた、長男と私。
お勉強は、まだまだこれからも、続きます。^^


(つづく)

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